近年、高齢者ドライバーの事故が急増。事故の原因、対策と免許の返納方法を紹介します。
最近、高齢者の運転する車が高速道路を逆走、アクセルとブレーキを踏み間違えて暴走などのニュースを目にする機会が増えました。立て続けに起きているので注目されているというのはあると思いますが、昔と比較して何が変わってきているのかなどの時代背景、事故が起きてしまう原因、予防するための対策を紹介します。
1.数値で見る交通事故死亡者数
内閣府が発表している「平成26年度 交通事故の状況及び交通安全施策の現況」によると、交通事故死亡者数は、平成16年に7,425人だったのが、平成26年には4,113人と半数近くまで減っており、全体としては減少傾向にあります(ピーク時の昭和45年と比較すると4分の1以下)。世代別に見ると高齢者世代の死亡者数も減ってはいるのですが、他の世代と比較すると減少率が低く、平成24年からは全体の50%を高齢者が占めるようになりました。高齢化により、他の世代が減り高齢者世代の割合が増えているからという解釈もできます。しかし、事故を起こした際に死亡する率を示した致死率(死者数÷死傷者数)では、他の世代の約6倍の数値になることから、事故があった際には死に至るような大きな事故を起こす傾向にあります。
2.高齢者の運転中の事故の原因と特徴
交通事故の原因には年代別に特徴があり、16歳から24歳の若い世代では、速度超過によるものが多いですが、高齢者になるとハンドル・アクセルなどの不適切な操作、安全確認のミスなどの割合が高くなります。その背景にあるものは何でしょうか?
- 判断力の低下
- 反応速度の低下
- 自信を持っている人が多い
高齢になると、瞬間的に判断することや、複数の情報からものごとを判断することが難しくなります。そのため、ハンドルの操作を誤ったり、アクセルとブレーキを踏み間違ったりして事故に繋がってしまいます。アクセルとブレーキの踏み間違いは、若い世代でも経験している人は意外に多いのですが、間違ってしまった時にすぐに離すという瞬間的な判断が遅れることが原因だと考えられています。
交差点で右折時に対向車と衝突するシミュレーションで、対向車を認識してから、衝突まで何秒の余裕があるかを計測する実験をおこなったところ、若い世代の平均は1.9秒、70代の高齢者の平均は1.2秒という結果が出ました。この0.7秒の違いは、時速60㎞で走っている場合に車が12mも進める時間です。これだけのズレがある中で、高齢者が昔と同じ感覚で運転していると、「間に合う」と思っても間に合わない、飛び出してきた人に即座に対応できない状態となり、事故が起こると安全確認不十分と判断されてしまいます。
各世代に「事故を回避する自信があるか」というアンケートを実施したところ、自信があると答えた人は、30代が10%対し、70歳以上では50%を超えるという結果が出ました。その自信は「今まで事故をしてないのだから、これからもしない」という経験などから来ており、運転中に危険な事があったとしても、それを反省するような事はしなくなる傾向にあります。その慢心により、確認が甘くなり事故を起こしてしまう人は少なくありません。
3.事故を防ぐためには
プライドの高い高齢者に勧めると怒る方もおられるかもしれませんが、事故というは被害者はもちろんですが、加害者も不幸になってしまいます。そのような状況を作らないためにも、何かしらの対策が必要です。
- 運転技術を客観的に見直す
- 最新技術に頼る
- 運転しない
JAF(日本自動車連盟)は「シニアドライバーズスクール」というものを開校しています。カリキュラムは会場により多少異なりますが、シミュレーターなどを使い客観的な指摘を受けることで、長年の運転によって染みついてしまった自己流の運転を見直し安全運転への意識が高まります。
近年、各メーカーからセンサーにより車・歩行者を検知し衝突を回避する機能、後方のモニター・センサーの充実によるバック時の事故回避機能、ブレーキとアクセルを踏み間違えた際の急発進抑制機能を搭載した車が発売されています。万が一の時に頼りになる保険として対応車種に乗り換えるというのも良いのではないでしょうか。
運転して事故を起こす危険を回避するのに最も有効な手段は、運転をしないことです。次項「免許の返納」で詳しく説明します。
4.免許の返納
免許の返納とは、高齢の運転者が自身の身体能力の低下を自覚し、自身の安全と道路交通に与える影響を考慮し、免許の取消申請をおこなうことです(複数の種類を持っている場合は、一部のみ取消も可)。
- 免許の返納状況
- 自主返納への壁
制度自体は1998年からありましたが「運転免許の取消し」という呼び名であったため、免許を取り上げられるような印象が強くあまり普及しませんでした。その後、自主返納という呼び名に変わり、免許証を身分証明書として使っていた人のために運転経歴証明書を発行するなどしたことにより、年間30万人程度の人が自主返納をするようになっています。
やはり本人が申請に行かなければならないという部分が大きな壁になります。先述しましたが、自分の運転に自身を持っている高齢者の方が多いため、自らの判断力・反応速度の低下を認めて、返納してもらうというのは一筋縄ではいきません。また、車が使えないということは生活への影響が大きいため、運転に不安はあるが返納できないという例もあります。そちらは、返納者には公共交通機関の優待などを設けるなど各自治体が様々な優待を実施していますので、ぜひ一度確認してみてください。
5.まとめ
- 高齢者の事故の特徴は、判断の誤りによる操作ミスや、反応の遅さによるものが多い
- 高齢者は運転に自信がある人が多いため、客観的に運転を見直す機会が必要
- 免許の返納者は年々増加しており、返納すると様々な優遇が受けられる
車が使えなくなると、生活が不便になることは避けられません。しかし、他の人に迷惑をかけてしまったり、自分の手で家族を傷つけてしまったりする可能性もあるため、客観的に自分の運転技術を見つめ、勇気ある決断を下すということも大切かもしれません。
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